【木下都議問題を考える】
当選後、初登庁したと報じられた木下都議ですが、
地方自治法
第137条(抜粋)招状を発しても、なお故なく出席しない者は、議長において、議会の議決を経て、これに懲罰を科することができる。
という規定により出席を促していたようです。この規定によって、仮に本日出席をしないと懲罰を行う運びだったようです。懲罰は次の四つがあります。
第135条
懲罰は、左の通りとする。
一 公開の議場における戒告
二 公開の議場における陳謝
三 一定期間の出席停止
四 除名
4段階の罰則規定があり、もっとも重い処分である除名を議決する予定だったようです。
【過去の事例】
ただし除名されても、除名処分が取り消しとなることもあります。記憶に新しいのは昨年、群馬県草津町議会議員が町長にセクハラ被害を受けた、ということを電子書籍等で告発しています。議会はこうした行動が品位を落とす、として除名処分を議決しましたが、県で差し止めとなり、町議は復帰しています(最終的にリコールで解職)。
また、地方議員の除名として最も有名な事例は、大阪の八尾市の市議除名処分です。昭和44年に同和利権について取り上げた市議に部落解放同盟が反発して、ロビー活動を行うことで八尾市議会は賛成多数による除名を議決するに至りました。この場合は大阪地裁が除名の効力について違法の判決を下して、市議は復帰しています。
このように、議会における除名は極めて重い処分であるにも関わらず、実際には議決した内容が裁判所や県の判断によって無効となる場合があります。
また、除名された元議員が再度出馬することを妨げるものでもありません(136条)。そして行政府(県)、司法府(裁判所)の影響からも独立しているとは言えないため、除名は復職の可能性を一定残すものと言えます。
【リコール制度】
確実なのは、住民の直接請求による解職、すなわちリコールです。今回の場合は都議会の板橋選挙区の有権者の三分の一の署名により、リコールをするための住民投票を請求することができます。なおかつ、それよって開催される住民投票で過半数の同意票があれば木下都議は失職します。
しかし現実的に、有権者の三分の一とは
46万6395人 ÷ 3 = 15万5465人
となります(R 3年都議選ベース)。
都議選の投票数は19万4393票でした。
つまり投票した有権者の8割近い人が署名をする必要があります。
さらにリコールを非現実的にしているのは「署名収集期間」が決まっていることです。署名を集めて良い期間は、都議では2ヶ月以内と規定されています。その短期間で15万人以上の署名を集める必要があります。
前述の草津町の例では、リコールに必要な署名数は約1800人で、署名収集期間は町村議会のため一月でした。しかし結果的に3180人の署名が集まりました。人口5400人の町だから実現できた、とも言えます。
また大規模なリコールでは、愛知県の大村知事をリコールをめぐる不正が現在も係争中です。県知事のリコールに必要な署名の収集期間は都議と同じく2ヶ月です。愛知県の場合、リコールに必要な署名数は86万7000筆でした。
しかし実際に集まった署名は約43万筆で、足りなかった上に、そのうち36万筆は無効署名と認定されました。どうやって判断したかというと、県の選挙管理委員会に提出された署名を各自治体ごとに分けて、地元の選管で選挙人名簿と照らし合わせて、筆跡等も含めて確認したということでした。大変な労力です。
【現実的な選択肢へ】
話を戻しますが、リコールは現実的に困難なため、除名処分を議会で議決する、というのが唯一の有効な手段でした。冒頭の「故なく(正当な理由なく)出席しない者」という規定により除名するほかなかったわけです。もっとも、本人が姿を見せたことで、この規定を適用することも出来なくなったわけですが。
また、本人は報酬返納の意思を示していました。都への返納は有権者へのキックバック、一種のワイロとなるため出来ません。そのため非営利法人に寄付をしたということですが、これもグレーだと思います。本来、議員報酬を返納するには、報酬を減額する条例改正案を議決する必要があります。首長の報酬カットも同じで、議会の賛成多数で初めて可能となります。つまりお金を返すにも物凄く面倒な手続きがいるのです。
議員の立場は、八尾市のように圧力に屈した議会議員が結託して一人の議員を除名する、ということがないように一定の身分保障がされています。除名を民主的なプロセスで決めたとしても、八尾市の例では集団リンチと同じです。除名は議会が正常に機能していない可能性を示唆するものです。
木下都議に残された道は、自分から辞めるか、後ろ指さされながら懸命に働く、という2択しかありません。そのどちらでもないため、現在は批判されています。
選挙期間中の不祥事が選挙後に明らかになった、という点については本人だけの責任ではありません。都民ファと警察は事態を把握していながら選挙期間中は黙っていました。この点、木下都議は選対本部に事態を報告しながら口止めされ、警察もまた都議会の最大会派に忖度したと言えます。結局フジテレビがスクープするまで、警察も情報を出しませんでした。そうしたことも含めて、洗いざらい喋るべきだろうと私は思います。