安芸高田市が計画する無印良品の誘致案を市議会が否決した、ということがニュースになっている。

結論からいうと、これは市長の巧妙なメディア戦略の一貫として行われたことだと思う。

市議会が問題視しているのは無印良品の出店の調査設計費450万円を市長が専決処分したというものだ。

専決処分とは議会を通さずに予算を執行することで、普段は1円でも議会に通さないと予算を動かせない市が緊急性の高い案件については市長の権限で予算を動かせる。

専決処分は後追いで議会の承認が必要となる。しかし結果的に議会が不承認を出しても専決処分はすでに使った予算であり、議会が否決しても予算としては成立している。

専決処分をした450万円の後に、実際に無印良品誘致のための改修工事に必要な予算3,300万円が今月の6月議会に提案された。

しかし議会はこの3,300万円の予算を否決した。必要な工事費を執行できないことになり、無印良品の誘致は断念せざるを得ない、また議会が発展しようとする市の足を引っ張ったということがニュースになっている。

しかし、このニュースの本質は、市長は無印良品の出店を始めから実現するつもりがなかった、ということだと思う。

4月末に専決処分した予算に続いて、市長は改修工事費についても議会の招集前に専決処分することが出来たはずだ。

設計費の専決処分の理由が議会を招集すると無印良品の出店が遅れる、という理由であったため、工事費についてもわざわざ6月の議会を待って提案する理由はない。

最初から関連する全ての予算を専決処分で押し切ることも出来たはずだ。

今回議会の反対派が問題視しているのは手続き論だ。簡単にいえば専決処分=議会軽視が気に食わない、ということになる。臨時会を招集することも出来たという反対論もあるため、裏を返せば、議会に提案さえすれば通った予算、ということを示唆している。

4月末に専決処分をした予算をもし3月の議会に上げられていたら今年度の新事業として行うことができたし、それが無理であっても450万円の調査設計費を6月議会に提案することもできた。

その場合、無印良品の出店は2ヶ月から3ヶ月程度先送りになる。この件の最も不可解な点は、なぜ市長はこの数ヶ月という期間を待てないのかということだ。

もともと対立が続いていた市長と議会の関係性を考慮したとしても、手続き論に終始している反対派の意見を見る限り、専決処分をしなければ無印良品関連の予算案は可決された可能性が高い。

専決処分が行われたのが今年の4月28日、安芸高田市と(株)無印計画の包括連携協定の締結が発表されたのが前日の4月27日だ。なお連携協定が結ばれることは中国新聞によって4月25日に報道されている。

もともとのスケジュールでは12月に道の駅の空きテナントに無印良品が出店する予定であったが、議会を通していたらこのスケジュールが数ヶ月遅れることになる。12月出店はクリスマス商戦にぎりぎり間に合うかどうかという微妙な時期だ。無印良品にとっては早いに越したことはないだろうが、昨今コンビニのようなドミナント戦略を展開している良品計画にとって、店舗数を増やすことにメリットがあるはずで、わざわざ12月に間に合わないからという理由で出店を断念するとは考えにくい。

くわえて、450万円の調査設計費とはなにかというと、コンサルタント企業に必要な工事費の見積もりを依頼し現場の測量と設計図の作成などを行わせるために予算だ。調査設計費とは単に絵を描くだけの予算であるため、調査設計費を執行すると必ず本体となる工事費用が後に続く。

議会から見ると、工事費用を議会で承認すると結果的に450万円の専決処分についても実質的に認めた形になる。工事費用と調査設計費は関連する予算だからだ。

専決処分とは「特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかである」ときに行われる。通常は災害時の復旧工事に必要な予算や、国の法改正によって自治体の運用ルールを即座に変える必要があるときなどに行われる。この「緊急性が高いもの」に無印良品の出店が含まれるかどうか、という点では間違いなく含まれるものではないだろう。出店時期が早いか遅いかということがただちに住民の生命財産を影響するとはいえないからだ。

この12月出店に市長がこだわった理由が明確に示されていないため、この一連の出来事は違う意味合いに解釈可能となる。

つまり私の解釈では、市長は始めから議会で否決されることを理解した上で、専決処分を行い、関連する予算を議会に提案したのだと考えられる。専決処分=議会軽視という挑発に解釈する議会が、関連する議案を提案されたら、否決することは最初から分かっていたはずだ。

ただし一連の出来事を通じて全国的なニュースとして表に出るのは、正義の市長と悪の巣窟である地方議会というシンプルな構図である。すでに何度も世間に取り上げられている構図が焼き回しされ、闘う市長の姿が伝わってくる。このことは市長の用意周到なメディア戦略として理解される。良品計画からすれば利用された側面もある。

始めから通すつもりのなかった物事の運び方を目の当たりにすると、今後、安芸高田市は民間企業の出店先として遠のいていくことは間違いない。