【議事録とアンケートから滋賀4区を見る】

小選挙区の選挙は55:45でも、51:49でも当選します。小選挙区制を導入する問題点は接戦になるほど、死に票が多くなることです。

しかし両者の対決が伯仲すればするほど、中間層の表の取り込みが重要になります。そのため結果的に、政策がほとんど同じで、両者に大きな違いが生じなくなります。つまり、どちらが勝っても中間層の民意が反映される可能性は高くなります。

同様のことは党公約にも言えます。岸田首相は「分配なくして成長なし」というフレーズの通り、交付金・補助金を中心とした大盤振る舞いを予告しています。このバラマキ政策は野党の公約にも見られ、たとえば消費税の減税もまたバラマキの一種です。国民の財布から出ていくお金が減るという点は同じだからです。

さて、議員になって思うのは選挙は派手で、義理と人情の世界で、政策は抽象的で、声だけはスピーカーを通すため大きく、一般ウケを狙うためどうしても独自色が見えず、自分の親類・職場のつながりや候補が所属する政党で投票してしまいがちです。

これは小選挙区に立候補する候補の方々を思えば気の毒なことです。政党の看板だけで評価されたり、応援に来る有名議員の知名度で評価されることは、本人も望むことではないでしょう。私の選挙のときも遊説中に「政治家みたいな連中が」と一緒くたに評されることもあり、あまりいい気分はしませんでした。候補者は、自分を、個性を、政策を、見てもらいたいわけです。

そのため、今日は過去の滋賀4区の候補者の過去の国会での発言から、両者の違いを考えてみたいと思います。滋賀4区の徳永候補・小寺候補はともに国会議員としての経歴が1期あります。それぞれ参議院、衆議院、という立場なので厳密には違いますが。しかしともに県会議員から国会議員となったという点を踏まえると、両者の歩みはよく似ています。

今回は衆議院・参議院の議事録から両者の過去の発言を要約しました。そしてマスコミのアンケートを通して、両者の主張も見ています。届け出順に徳永候補、小寺候補の発言とアンケート分析をまとめています。なお、議事録のうち、出席者としてのみ参加した会議録は除いています。

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ここからの話は、私の主観によって分析した内容です。そのことを踏まえてご一読ください。

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【両候補の特徴】

○徳永候補

徳永候補は外交・防衛に特化した議員です。発言の大半は当選から2年後に民主党政権が誕生し、外務大臣政務官に就任したため、官僚の作った答弁が目立ちます。その中から、外務大臣政務官としての答弁を除いて検討をします。

平成22年3月26日の「北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会」では、当時の韓国の李明博政権が太陽政策という対北朝鮮への融和・解放路線に転換することに言及しています。この政策は朝鮮半島の非核化が中心となっているため、拉致問題が希薄化することへ懸念を示しています。

また、平成20年4月22日の外交防衛委員会では、在日米軍への「思いやり予算」について、不必要に金額が大きいという観点から質問をしています。「思いやり予算が始まった当初は自衛隊は実力的に不十分であり、在日米軍への依存度が高かった時代であった、同盟のコストとして当時は必要であったとは理解している、しかし今では日本は十分に自前で出来る部分がある、にも関わらず負担額がそれでも増えていくことをどう理解すればよいのか」という発言です。

また、平成20年3月27日の外交防衛委員会では、チベットのラサで中国保安当局がデモ隊を鎮圧したことについて、当時の自民党政権に強い対応を求めています。さらに中国政府と対立関係にあった法王ダライ・ラマとの対話の必要性を論じています。

こうした点から、外交面に関しては徳永候補は保守的であると言えます。

しかし自衛隊に関しては、シビリアンコントロール(文民による統制)が十分に必要であると慎重な姿勢を示しています。

初の国会質疑となった平成19年10月25日の外交防衛委員会では、自衛隊の海外派遣をめぐって、テロ対策特別措置法が期限切れとなり、新テロ特措法が審議されていました。国会の承認を受けた後には、閣議決定で自衛隊の補給活動を決定できる、という内容について反対の立場で質問をしています。

もっとも、当時は参議院は野党勢力が大きい「ねじれ国会」でした。党利党略の面から、発言した点を考慮する必要もあります。

○小寺候補

小寺候補の特徴は、地元の要望を国会で取り上げる頻度がかなり高いことにあります。

たとえば令和3年2月25日の予算委員会第二分科会では、地方公務員の地域手当を取り上げています。地方公務員の給与は基本的に都市部になるほど高くなります。加えて「地域手当」という加算措置が一定以上の規模の市では導入されています。

近隣では栗東市・守山市・東近江市・甲賀市などが挙げられます。給与をベースとして数パーセントの手当が乗ります。

この地域手当がない地域ではどういうことが発生するかというと、たとえば掛け持ちで公務員試験を受験した人がいた場合、必然的に手当がつく市に流れる人材が多くなります。もし竜王町で「合格」の太鼓判を押した受験者がいても、地域手当がないため「給料が高い市でも受かったのでそちらに行きます」ということになる可能性があります。

文化的にも連続する地域でこうした取り扱いの違いがあるのはおかしいのではないか、ということを国会で取り上げています。

他にも、名神名阪連絡道路の整備促進、県内にはない高等専門学校の設置の要望、国道8号の西横関交差点右折レーン、ワクチンの確保状況についての質問などは、選挙区の市町から要望事項として挙がっているものを取り上げたといえます。

こうした地元の声を国会で取り上げる、というのは小選挙区の議員では当たり前のことかも知れません。しかし県内の他の小選挙区の与党議員と比較しても、滋賀県の、とくに4区をベースにした議論が多く見られました。

【両候補の矛盾点】

○徳永候補

徳永候補は日テレのNEWS ZEROのHP上のアンケートで「アメリカとの同盟関係を強化すること」に「賛成」と回答しています。

また朝日新聞のアンケートでは、

A:危機のときのアメリカによる協力を確実にするため、日米安保体制をもっと強化すべきだ

B:日本と関係ない戦争に巻き込まれないように、日米安保体制の強化には慎重であるべきだ

という質問に「どちらかと言えばAに近い」と回答しています。

滋賀4区では、野党共闘の候補者として徳永氏に一本化されていますが、気になるのは共産党との関係です。

前回の国政選挙における2人の野党候補者の票数を合算すると自民党候補を超える、という単純な足し算によって4区の野党共闘は語られます。しかし共産党との共闘には政治的な矛盾も含まれています。

共産党は今回の党公約で「日米安保の廃棄」を明記しています。安保法制の廃棄とはアメリカとの軍事同盟の解消、という意味です。マニフェストではそれに代わって、対等・平等な日米友好条約を締結する、と謳われています。この友好条約がどういったものか詳細には説明されていませんが。

今回の選挙で共産党は「二段階戦略」と呼ばれる、安保廃棄という党の基本方針を堅持しつつも、これを野党共闘の場に持ち込まない、という複雑な態度をとっています。

この分かりにくさが、政策的に異なる政党同士の共闘であると捉えられており、野合(やごう)という批判はこうしたところから来ています。野党統一候補には、政策的な一本化も有権者に向けた分かりやすさのために必要です。野党に投じられる票は「自民党への批判票」とも読み替えることもできますが、立場が異なる政党同士がタッグを組んでも前回並みに支持が集まるのかは別物であると思います。

○小寺候補

2017年の衆院選に初出馬した際、朝日新聞のアンケートで小寺候補は「所得や資産の多い人に対する課税を強化すべきだ」という問に対して「どちらかといえば賛成」と肯定的に回答しています。

しかし今回の選挙における、朝日新聞と東京大学谷口研究室の共同調査に対するアンケートでは「所得や資産の多い人に対する課税を強化すべきだ」という質問に対して「どちらとも言えない」と回答しています。

一方、NHKの2021衆院選候補者アンケートでは「大企業や所得の多い人への課税を強化し、国の財源に充てることについてどう考えますか」という質問には「どちらかといえば反対」としています。同時期の同様の質問に対して回答が異なっています。

背景には岸田政権の金融所得課税があります。岸田氏は総裁選では「1億円の壁」という、所得が1億円を越える場合、実質的な税率は下がってくる、という部分にメスをいれると発言していました。しかし金融界からの反発を受けて、当面は金融所得課税は触らない、増税はしない、という方針転換を示しました。岸田政権は出だしからつまづき、小寺候補もこうした煽りを受けたものと考えられますが、こうした発言のブレは、有権者に対してどうしてそう変遷したのか丁寧な説明が必要であると思います。

【まとめ】

以上のことは、先だってびわ湖放送で放映されたTV討論会を受けて書きました。私から見て、両者の違いがテレビ討論では明確には理解出来なかったためです。小選挙区は政党の看板もありますが、政党への信任票は比例代表で行われるべきことだと思います。そのため、人間や政治家個人の思想や政治観をつぶさに見ないと、小選挙区における投票をどうするのかは最終的に決められません。

徳永候補、小寺候補ともに国会での実績は十分にあると思います。しかしその取り上げるテーマとその傾向には、かなり違いが見られます。有権者もまた自分の主義主張や考え方と照らし合わせて、投票に行く、ということが大切です。

まだ、投票日まで6日間という期間があります。色々なアンテナを立て、情報を収集し、人物を見極め、一票を投じる、ということが明日の地域と日本の未来につながると思います。